数日が経ちました。
『ぶーにゃ』は食事前のエプロンやお茶の準備など、自分にできることをしながら、
ご利用者のトイレ誘導、オムツ交換など、少しずつ仕事を覚えていました。
色々な職員さんのやり方を見て学ぶうち、エピソード2に書いたような
職員さんばかりではないことも分かってきました。
ある男性職員さんは、オムツ内に便が出ているご利用者に対して
「気持ちが悪かったね、すぐに(オムツを)替えるからね。」
と、優しい笑顔と声で接していましたので、
(この人のような職員さんになろう!)
と、『ぶーにゃ』はこの職員さんを目標とし、模倣することを決めたことを覚えています。
新人職員さんは、常に先輩職員の背中を見ています。
人がすぐに辞めてしまうような施設は、仕事がキツイ以外に
先輩職員のご利用者への対応に幻滅して辞めてしまう人も少なからずいると思います。
とはいえ、見よう見マネだけではなかなか上達しないものです。
最近では、前もってヒトの身体の動かし方などを理論的に教えた後に、
OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)でもって、
実際に実践して学ばせるような教育方法をとっている施設もありますが、
この頃(20年以上前)は、職人の世界のように
『技術は見て盗め』的な教え方が多かったように思います。
人間の身体の動き方、動かし方が分かっていないと、
オムツを交換するだけでも大仕事です!本当に苦戦します。
この頃の『ぶーにゃ』は一人のご利用者のオムツを交換するのに10分以上掛かっていました(汗)
(何度も横を向かせてごめんなさい・・・きっと上達します!)
と、心の中でご利用者に謝りながら、
自分なりに、より良いやり方を模索していたことを覚えています。
余談ですが、この頃は素手でオムツ交換をしていました。
使い捨ての手袋は「使いすぎると怒られる」とのことで、
皆、嘔吐物や感染症の疑いがあるご利用者にしか、使い捨ての手袋を使用していませんでした。
感染のリスクなどあまり考えられていない時代だったのでしょうね。
『ぶーにゃ』移乗介助を教わる
前置きが長くなりましたが、
『ぶーにゃ』はこの日、移乗介助を教わりました。
ヒトは、目的に合わせて生活の場を常に移動するものです。
移乗、それはベッド ⇔ 車椅子、車椅子 ⇔ トイレなど、
移動するための手段とする乗り物や、生活行動をする場所に乗り移ることで、
ヒトとしての生活を営む行動を支える根幹となるものです。
早い話が、乗り移りのお手伝いです。
先輩の男性職員さんに呼ばれ、ソファに座っているご利用者の近くへと移動します。
「『ぶーにゃ』さん、冷蔵庫を抱えたことはある?」
と、車椅子をご利用者の傍へ動かしながら
男性職員さんは言います。
「いえ、ピアノは持ち上げたことがありますが、冷蔵庫はありません。」
と、『ぶーにゃ』は答えます。
「まあ、たぶん似たような感じ。
それじゃあ、やるから見ていてね。まあ、冷蔵庫は例え、イメージとしてね。」
と、言うと、男性職員さんは
車椅子の足置き(フットサポート)が
上に上がっているか確認し、
おもむろにご利用者の前に立つと、ご利用者の脇の下に手を差し入れて
「○○さん、ちょっと車椅子へ移るよ。」
と、言うと
「こうやって、密着して、抱え上げて・・・それで、足が車椅子に当たらないようにね。
よいしょ・・・それで、ゆっくり下ろす。」
と、ソファからご利用者を持ち上げるように抱え上げると、
身体の向きを変えて車椅子にドサッと下ろします。
ご利用者は、足がほとんど床に接地しておらず、
身体が持ち上げられた時から
「痛い痛い!何をするの!?」
と、言っています。
男性職員さんは
「痛くない、痛くない。ごめんよ、もう一回ソファに戻るよ。」
と、ご利用者を再度ソファに移します。
非常にざっくりとした説明でしたが、要は抱えて持ち上げろということね、
と、理解します。
男性職員さんの方法を真似て、先ほどのご利用者をソファから車椅子へと移乗させます。
脇の下に手を入れて、身体を密着させた段階から、
ご利用者が『ぶーにゃ』を突き放そうと抵抗もあり、
もの凄く腰に負担が掛かります。
移乗介助を終えて、男性職員さんから
「そうそう、できるね。腰だけ痛めないようにね。」と、OKをもらいました。
こうして、ヒトを抱えて持ち上げる、力任せの方法を教授していただいたのでした。
ヒトとモノの違い
ヒトとモノとの違い。
それは、動作や姿勢によって重心位置が常に変化することです。
ヒトは立ち上がる時に、前方へと重心を移動させて立ち上がるため、
介助時に密着し過ぎると、相手の身体の動きや重心の移動を妨げてしまうことになります。
抱えて持ち上げるということは、相手の身体の動きを考えずに密着するため、
その人のほぼ全ての重量を介助を行う人が支えなくてはならず、
腰や膝にかなりの負担が掛かります。
支えられる人も、自身の体重が介助をする人が支えている
脇の下に集中するため、痛い思いをすることになります。
『ぶーにゃ』はしばらくは教わった方法で介助を行っており、
介護は肉体労働だ、しんどいと、思っていましたが、
人間、色々と学び、考えるものです。
密着せずに少し離れ、自分が後ろに下がりながらご利用者の足に
体重が乗るように少し工夫をするようになりました。
何故そうすると楽になるのか、意味は分からずでしたが(笑)
この頃から色々と試行錯誤をするようになり、
後に運動学などを勉強したことで、体験と知識がつながりました。
『ぶーにゃ』は今でも介護技術の中で移乗介助が一番好きです。
当時を振り返って
当時は『ボディメカニクス』という概念も全く聞くことなく、
最初は、ただただ力任せに移乗介助を行っていました。
今思うと、ご利用者には痛い思いをさせたのだろうなと、
申し訳ない気持ちでいっぱいです・・・
こうした力任せに介護を行うことを
介護福祉士ではなく『介護力士士(かいごりきしし)』
と、揶揄する風潮も見られるようになってきましたので、
時代が変わってきていることを実感します。
最近では『ノーリフティングケア』もしきりと言われるようになってきています。
色々な福祉用具の登場で、介護を行う人も、介護を受ける人もお互いが
安心、安楽なケアが行えるようになってきています。
ボディメカニクスやノーリフティングケアについても別の記事で書いていきたいと思います。